「RAG活用断念」「コスト超過で活用にストップ」そんな“失敗AI”からV字回復。日本製紙の全社導入に向けた生成AIツール、選定の決め手とは?

日本製紙株式会社様(以下、日本製紙)では、2024年度から生成AIの活用を本格的に開始しました。当初は別の生成AI基盤を250名規模で導入しましたが、運用を進める中で深刻な課題が浮き彫りになりました。そこで、2025年4月に全社展開に向けて「Lightblue」を導入。これまでの課題を乗り越え、全社の生産性向上に向けて活用を進めています。今回は、日本製紙で本プロジェクトを推進している情報システム部の半田様に、これまでの取り組みと今後の方針について詳しく伺いました。

導入背景:従来の生成AI基盤での課題と限界

全社展開に向けたトライアルとして、別の生成AI基盤を導入。「生成AIを導入すれば生産性が大幅に向上するはず」とプロジェクトを開始したものの、実際に導入してみると利用率は伸び悩み、想定外の壁が次々と立ちはだかりました。

浮き彫りになった3つの壁

  1. 高すぎる操作のハードル:
    個人向けChatGPTと大きく異なるUIで、目的別テンプレートは充実しているものの、プロンプト技術の前提を感じさせる設計でした。結果として、操作の初期ハードルが高く、多くの従業員の利用が進みませんでした。
  2. 活用するほどコストが増大する料金体系:
    本来であれば高性能モデルを必要としないマクロ生成などの作業でも、想定外の費用が発生していました。どの作業で高性能モデルを使うべきか、また費用が発生するのかがユーザーには分かりにくい仕様となっていました。生成AIの活用推進担当者として、社員に生成AIをもっと使ってほしい一方で、コスト超過を理由に利用を控えるよう注意せざるを得ないという矛盾に悩みました。特に、生成AIへの関心が高まる一方で、コスト超過を懸念した運用により、利用意欲を損ねる結果となりました。月半ばで高性能LLMが使えず、月末はエコノミー版のみとなる状況が継続し、生成AIの利用率向上にブレーキが掛かりました。
  3. 実用的でないRAGの精度:
    社内文書を活用したくても、RAGの回答精度が良くないという問題がありました。以前のツールは、各本部内のフォルダに所属部署のドキュメントが集約アップロードされる仕組みだったため、関係のない情報まで参照してしまい、正しい回答を生成できませんでした。トライアル評価では、これ以上の検証は難しいとの声が上がったため、RAGの活用は早々に諦めざるを得ない状況でした。

結果として、ライセンスを付与した250名のうち、約100名はほとんどツールを使わず、一部のコアメンバー約50名を中心に活用されているという状況に留まりました。

「Lightblue」選定の決め手

半田様は「このままでは全社展開は難しい」と感じつつも、「より良いサービスがあれば活用は進むはず」という希望は捨てられず、他の生成AIツールの導入検討を始めました。その中で、2025年4月に「Lightblue」の導入を決定しました。
選定の決め手は、以前のツールが抱えていた課題をクリアできる点でした。

選定の決め手となった3つのポイント

  1. 圧倒的なRAGの精度:
    「アシスタントごとに知識(ドキュメント)を分離できる設計により、求めている情報に対して的確な回答を得られるようになりました。トライアルでその精度を体感し、驚きました。」
  2. 直感的なUIとWeb検索機能
    「ChatGPTのように自然に使えるインターフェースに加え、Web検索機能も搭載されており、別途検索ツールを案内する手間もなくなりました。」
  3. 明確で予測可能なコスト構造
    「従量課金を気にすることなく、誰もが自由に使える環境が実現できました。」

導入後に工夫したポイント

2025年4月の本格運用開始から数か月が経ち、ユーザーは順調に増加しており、日本製紙内での生成AI活用も着実に進んでいます。こうした状況を受け、半田様は導入時に工夫した3つのポイントを挙げています。

自発的な利用を促進するコミュニケーション
チャットツールによる意見交換の場を設けると一部コアメンバーのハイレベルな意見に終始し、他の人が発言しにくくなる傾向がありました。今回はあえて公式な意見交換の場を設けず、現場での自然な口コミで良さが伝わるようにしました。

「何でもできる魔法の杖」ではないことを丁寧に説明:
「10年分の販売データをすべて入れたら売上傾向がわかるか?」といった過度な期待に対しては、それはBIツールなど別の専門ツールの役割であると丁寧に説明し、生成AIの得意なこと・苦手なことを正しく理解してもらうよう努めました。

段階的な導入で熱量を高める:
関心の高い部門からアプローチし、工場などまだ導入が進んでいない部門に対しては、トップダウンで押し付けるのではなく、まずはアンケートなどでニーズを把握し、関心の高い拠点からワークショップなどを開催するアプローチを計画しています。

導入の結果

こうした導入時の工夫もあり、社内の反応は以前の生成AI導入時とは劇的に変わったと半田様は話されます。
結果として、導入後以下のような反応・アクションが社内から得られています。

  • 役員層が自ら活用を開始
    • これまでITツールの活用機会が限られていた役員が、経営資料の要約などに活用し始め、「時短になる」「これは使える」と高く評価。役員から所属部門への推奨により利用が広がっています。社長も自らユーザーとして利用しており、経営層の支援が大きな追い風となっています。
  • 否定的な意見が減少
    • 以前のツールでは様々なクレームがありましたが、今回は否定的な意見が寄せられていません。
      「業務に使えるAIツールである」と高く評価されている証だと考えています。
  • 関連会社へも自然に波及
    • 社内での評判が口コミで広がり、関連会社からも「話を聞かせてほしい」と問い合わせが発生しています。
  • 増え続ける利用者
    • 具体的な利用時間削減の数値化はこれからですが、挙手制で利用者が増え続けていることが最大の定量効果だと捉えています。また、120名規模のワークショップも開催し、各事業所からも開催の要望が上がるなど、今では多くの従業員が生成AIに興味を持って参加しており、関心の高さが伺えます。

今後の展望

日本製紙では、今後この良い流れをさらに加速させていくために3つの取組みを推進される予定です。

工場への本格展開:
「まだ導入率の低い工場への展開が次のテーマです。製造現場では費用対効果を厳しく問われるため、「安全品質管理(過去の事故事例や災害報告書の検索)」など、コスト削減とは別の価値を提供できるテーマからアプローチし、成功事例を作っていきます。」

利用状況の見える化:
部署やユーザーごとの利用状況をダッシュボードで可視化する取り組みを進めています。部門ごとの特性が見えるようになることで、より効果的な働きかけに繋げていきます。」

高度な活用アイデアのプロジェクト化
「社内で「アイデアコンテスト」を実施し、効果の高いアイデアには予算をつけてプロジェクト化することを計画しています。これにより、現場主導でより高度な活用事例を創出し、全社的な成功体験として共有していきたいと考えています。」

まとめ

今回の取り組みから、生成AI導入の成否は「ツールの選定」が極めて重要であると痛感しました。特に、従業員が直感的に使えるUI、コストを気にせず試行錯誤できる料金体系、そして信頼できるRAGの精度は不可欠です。

本当に優れたツールは、トップダウンで強制せずとも、現場の口コミで自然と広がり、最終的には経営層をも動かす力を持っています。これから生成AIの導入を検討される企業様には、現場の使いやすさを第一に考え、従業員が「使いたい」と思える環境を整えることをおすすめします。

導入企業:日本製紙株式会社
導入時期:2025年4月
導入規模:1,500名(関連会社含む)
課題:従来利用していた生成AI基盤のRAG精度の低さ
コスト管理の複雑さ、ユーザビリティの問題
導入効果:役員レベルでの自発的利用
口コミによる自然な拡大
関連会社への波及

※本事例は2025年10月時点の情報に基づいています。

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