コニカミノルタが提唱する効率的なRAG構築方法~現場主導で実現した部門特化型生成AI活用事例~

コニカミノルタ様は、イメージング技術を核に、デジタルワークプレイス・プロフェッショナルプリント・インダストリー・画像ソリューションの4領域で事業を展開。光学・画像・センシング技術を通じて、顧客企業の課題解決と新たな価値創出に取り組まれています。

その中核を担う情報機器事業(デジタルワークプレイス・プロフェッショナルプリント)の開発本部では、製品やソリューション開発の効率化と高度化をテーマにさまざまな取り組みが進められています。

そのなかで直近、大きなテーマとして掲げられていたのが「開発工程の軽量化」。実現方法を模索する中で、製品開発部門とプロセス改革部門から「生成AI、特にRAG(Retrieval-Augmented Generation)を活用できないか」というミドルアップの提案がなされ、プロジェクトがスタートしました。

(写真左から)十都 善行さま:コニカミノルタ株式会社 プロフェッショナルプリント事業本部 開発統括部 開発プロセスイノベーションG、山田 康さま:同 デジタルワークプレイス事業本部 開発統括部

実態調査から浮き彫りになった、設計現場の「知」の課題

プロジェクトの立ち上げにあたり、まず行われたのが現場の実態調査でした。
その結果、設計担当者の約8割が、過去の資料や仕様書などを探す「調べ物」に大きな負担を感じていることが明らかになりました。作業者の工数的・心理的な負担を軽減し、設計者が本来注力すべき創造的な業務に時間を充てられるようにすることが、今回の取り組みの最大の目的と位置づけられました。

特に、社内に蓄積された膨大な設計標準書、製品仕様書、DR(デザインレビュー)資料は、形式知として整理が進んでいる一方で、共有知としての活用が十分ではないという課題がありました。
埋もれている形式知を、組織全体で共有・再利用できる「知」として転換していくことが求められていたのです。

RAGを活用した部門特化アシスタントの開発

課題解決の方向性として着目したのが、社内に蓄積されたナレッジを活かし、最適な回答を生成するRAG(Retrieval-Augmented Generation)技術でした。
そこでコニカミノルタ様では生成AI SaaS「Lightblue」を導入し、設計業務に特化したAIアシスタントの構築に着手しました。

1st Step:アンケートに基づく優先順位付け

まず設計担当者を対象にアンケートを実施し、「どの資料を調べるのに最も時間がかかっているか」を調査しました。 その結果、最もニーズが高かったのは「設計標準書」に関する検索・参照であり、最初の開発対象として「設計標準アシスタント」を選定しました。

2nd Step:設計フェーズに合わせた段階的な展開

「設計標準アシスタント」の成功を受け、製品開発・機能開発の各フェーズ(構想・設計・検証)に対応したアシスタントを順次開発・リリースしています。

  • 構想フェーズ: 製品仕様書アシスタント、機能仕様書アシスタント
  • 設計フェーズ: 設計標準アシスタント
  • 検証フェーズ: 評価標準アシスタント(品質保証部と連携して開発)
  • その他: 失敗事例アシスタント、再発防止アシスタント(品質保証部と連携して開発中)、製品DR資料アシスタント

こうして、設計プロセス全体にわたって知識の検索・活用を支援する“部門特化型アシスタント群”の整備が進められています。

品質と定着を支えた3つの工夫

開発・運用の各フェーズでは、アシスタントの品質と利用定着を両立させるために、コニカミノルタ様ではいくつかの工夫がなされました。その代表的な3つの取り組みを紹介します。

1. 「ウォーターフォール型」で臨んだRAG開発

生成AIプロジェクトでは「まず動くものを出して改善する」というアジャイル型の進め方が一般的です。しかし、現場で一度「使えない」と判断されると利用が進まなくなる懸念があり、今回はあえてウォーターフォール型の開発アプローチを採用しました。

事前に目標とする品質水準(正答率90%以上)を設定し、厳密なテストをクリアしてからリリースする方針を徹底。これにより、初期段階から信頼性の高いアシスタントを提供することができました。

2. AIを活用したテストの自動化と品質担保

品質を担保するため、リリース前には200問のQAテストを実施。一定水準を満たすことを確認したうえで公開する仕組みを構築しました。

テストに必要な大量の質問データは、生成AIによって自動生成。各ファイルに対して最大10問ずつ質問を生成し、その中からランダムに選んだ200問で検証を実施しました。

結果として、正答率93〜97%という高精度を実現。生成AIをテストプロセスにも活用することで、開発効率と品質担保を両立しています。

3. 利用状況の可視化と継続的な情報発信

アシスタントの利用促進に向け、Power BIによる利用状況ダッシュボードを作成。
アシスタントごとの利用頻度やヘビーユーザーを可視化することで、改善施策に役立てています。また、リリース時には勉強会や活用事例の共有を実施し、アシスタントの利用方法や、ヘビーユーザーの利用ノウハウを広く展開。専用のTeamsチャネルを通じてリリース情報や活用TIPSを定期的に発信することで、ユーザーの関心を継続的に維持しました。

こうした取り組みを通じてアシスタントの活用率が当初の30%台から約1年間で50%弱へと向上。開発と運用の両面から、現場で“使われ続ける”AIアシスタントを実現しています。

成果:利用拡大と社内への波及効果

開発した各アシスタントでは、正答率90%以上という高い品質を安定して実現しています。
業務時間削減効果については現在、ヘビーユーザーへのヒアリングを通じて具体的な数値を算出中ですが、すでに利用現場からは生産性向上の実感が多数寄せられています。

定量的な成果

前述の通り、アシスタントの活用率が当初の30%台から50%弱へと向上しました。

この背景には、こまめな情報共有やSharePoint連携などによる話題づくり、勉強会の開催など、利用促進のための継続的な取り組みがあります。さらに、議事録作成などRAG以外の用途への活用が進んだことも、利用率向上に寄与しました。 AIを日常業務の一部として取り入れる文化が、着実に根づき始めています。

定性的な成果

製品開発部門での成功をきっかけに、品質保証部門など他部署への活用の広がりが見られます。また、文章の添削やプログラムコード生成など、当初想定していなかった用途でAIを活用するヘビーユーザーも登場。 これが他の従業員への刺激となり、自律的な活用の輪が社内で生まれつつあります。

社内の反応と文化変化

ダッシュボードによる利用状況の可視化により、各部署での活用度合いが明確になりました。また、ヘビーユーザーの具体的な活用方法が共有されることで、「自分も使ってみよう」という前向きな空気が醸成されています。

今後の展望:RAGを起点とした生成AI活用の広域展開へ

現状の利用率は30%程度から50%弱まで順調な伸びを見せています。今後は、このRAGアシスタントを呼び水として、RAG以外のユースケースにも活用の幅を広げ、様々な業務における効率化を実現していくことが重要なテーマとなります。

生成AIを汎用的な業務支援ツールとして定着させるべく、コニカミノルタ様では以下の施策を計画しています。

1. ヘビーユーザーへのインタビュー

実際にアシスタントを使いこなしているヘビーユーザーへのヒアリングを実施。
具体的な活用方法や業務時間削減の効果を可視化し、成功事例として社内で共有します。これにより、他部門への展開と自発的な利用促進を図ります。

2. ユーザー会の開催

アシスタント活用のノウハウを共有し、ユーザー同士が学び合えるコミュニティ型の場を設けます。 現場の知見を横断的に結びつけることで、AI活用の定着と発展を促進します。

3. アンバサダー制度の導入

各部署にAI活用の旗振り役となるアンバサダーを設置し、ボトムアップでの利用拡大を推進。現場からのアイデアを吸い上げ、組織全体で生成AIを活かす文化を育てていきます。

4. RAG以外のユースケース拡大

RAGアシスタントで得られた知見をもとに、課題ベースで新たなアシスタントを企画・開発。議事録作成、ドキュメント整理、品質レビューなど、日常業務に密着したユースケースへと適用範囲を広げることで、生成AIの実践的価値をさらに高めていきます。

本事例のまとめ

本プロジェクトでは、コニカミノルタ様が抱えていた「社内に蓄積された知の活用」という課題に対し、生成AI SaaS「Lightblue」を用いてRAG(Retrieval-Augmented Generation)技術を活用した部門特化型アシスタントを構築しました。
課題の抽出からアシスタントの設計・品質検証・社内展開に至るまで、一貫して現場で使われる品質と仕組みを重視した取り組みになっています。結果として、正答率90%以上の高精度を維持しつつ、利用率は当初の30%台から50%弱まで向上。
さらに、他部門への展開や新たなユースケース創出など、組織全体への波及効果も生まれています。

こうした成果は、「品質を担保したRAGの導入」「身近な成功体験の共有」「継続的な情報発信」という地に足のついた取り組みの積み重ねによるものです。

Lightblueは今後も、RAGをはじめとする生成AIの実践的な活用を通じて、現場に根づくAI活用と生産性向上の実現を支援してまいります。

※本事例は2025年10月時点の情報に基づいています。

関連記事