探す時間を半減!日立建機が挑む「生成AI × ベテラン知見」による問い合わせプロセス改革と業務品質向上プロジェクト

はじめに

日立建機株式会社のコンストラクションビジネスユニット サービス統括部 テクニカルサポート部は、世界中の顧客や販売代理店に対し、建設機械の操作、メンテナンス、修理に関する技術サポートを提供しています。

同部のミッションは「世界の日立ブランドユーザーにずっと満足していただく」。故障による機械の停止時間(ダウンタイム)を最小限に抑え、迅速かつ質の高いサポートを提供することなどを通し、顧客満足度を向上させることです。しかし、海外からの問い合わせ対応には、特有の課題が存在していました。

抱えていた課題

同部の主要業務の一つに、「FIR(Field Information Report)」システムを介して寄せられる販売代理店からの技術的な問い合わせに対応する業務があります。このFIRシステムには、 約20年分にわたるアフターサポートの膨大な事例が蓄積されており、世界中の販売代理店、地域統括会社、そして日立建機のテクニカルサポート部、品質保証部門、設計部門を繋ぐ重要な情報基盤です。しかし、担当者によってはこの問い合わせ対応業務が1日の3〜5割、若手スタッフの場合は8割を占めることもあり、大きな負担となっていました。

具体的な課題

1.情報検索の非効率性と属人化

問い合わせの詳細内容は長文の自由記述で寄せられるため、内容の理解と整理に時間がかかっていました。更に、海外からの問い合わせは主に英語で、翻訳にも負担がありました。

また、FIRシステムには修理手順等の過去の情報が蓄積されていますが、それらを定型化した書式で記録するのが難しいケースも多くあり、自由記述の欄に個々で違った表現の文章が記載されていることも、内容の整理に時間がかかる要因でした。

問い合わせの回答をするにあたり、過去の類似事例を活用するケースも多くあり、実際にFIRシステムでの検索をする際にはキーワード検索が主体でした。そのため、的確なキーワードと事例を選ぶには長年の業務経験が必要で、業務が属人化していました。経験の浅いスタッフでは、必要な情報にたどり着くまでに1時間以上かかる場合もありました。

一方で、検索機能の向上などFIRシステム自体のリニューアルには、要件定義から開発までに多大な時間とコストを要するため、迅速な改善が困難でした。

2.回答作成の負担

回答文に決まったフォーマットはなく、担当者が都度、収集した情報をもとに構成を考え、一から文章を作成する必要がありました。

また、若手スタッフからの相談を経験豊富なベテランスタッフが受けた場合、都度OJTを行う必要があり、ベテランが不在の時に若手がどう対応するかという課題もありました。

こうした課題から、若手スタッフは問い合わせ内容によって1件の対応に1〜4時間を要することもあり、これが迅速な顧客対応のボトルネックとなっていました。

“生成AI”を用いた問い合わせ対応プロセス改革

上記の課題を解決するため、テクニカルサポート部では「Lightblue」を導入。特に負担の大きかったFIR業務から活用を開始しました。

具体的な活用方法

  1. 問い合わせ内容の翻訳・要約:
    英語で届いた問い合わせ内容を、生成AIが瞬時に翻訳・要約。担当者は迅速に状況を把握できます。
  1. 高精度な過去事例検索:
    従来のキーワード検索に加え、文章の「意味」を理解して検索するベクトル検索を活用。これにより、経験の浅い若手スタッフでも、ベテランが見つけ出すような関連性の高い過去事例を簡単に見つけられるようになりました。
  1. 回答ドラフトの自動生成:
    検索した過去事例の情報をもとに、生成AIが回答のドラフトとその他補足情報を自動で提示。担当者はその内容をベースにすることで、質の高い回答を効率的に完成させることができます。

業務効率化と品質向上にむけて工夫したポイント

今回の取り組みは、単なるツール導入に留まりませんでした。 推進担当の齋藤氏が中心となり、「経験豊富なベテランスタッフの業務ノウハウをいかに生成AIに落とし込むか」という視点で活用を企画。

将来的には、代理店の担当者自身が生成AIアシスタントを使って問題を自己解決できる仕組みを構築し、問い合わせ件数そのものを削減するという、より高いレベルでの業務改革を目指して検証を進めています。

プロジェクトの成果

定量的効果:若手スタッフの問い合わせ回答の業務時間を劇的に削減

  • 事例の検索と分析時間:1/2に削減。若手スタッフの場合に従来20~60分かかっていた過去事例の検索・情報抽出が、10~30分で完了するようになりました。
  • 総対応時間:1案件あたり場合によって1時間〜4時間にかかっていた対応時間が、1/2の0.5時間〜2時間まで短縮されました。
  • 部署全体の削減効果(ポテンシャル):この業務改革が部署全体に浸透すれば、月間400時間以上の工数削減につながる可能性があると試算されています。

定性的効果:回答品質の向上と属人化の解消

  • 回答品質の向上:生成AIが網羅的に情報を収集・整理するため、回答の質が安定。検証では、約7割の問い合わせ対応で品質向上が見込めるという結果が出ています。
  • 業務の標準化と人材育成:経験に頼っていた業務が標準化され、若手スタッフでも質の高い対応が可能になりました。これにより、新人教育(オンボーディング)の効率化も期待されています。

今後の展望

見えてきた新たな課題:現在はテクニカルサポート部などアフターサポート関連部門での活用が中心で、部内でも利用率はまだ2割程度に留まっています。今後は、具体的な成功事例(モデルケース)を作成し、効果を分かりやすく示すことで、部内全体への利用浸透を図っていく必要があります。

今後の展望最終的なゴールは、「代理店による自己解決率の向上」です。生成AIアシスタントを代理店に提供することで、問い合わせ件数自体を8割削減できる可能性があると検証されており、実現すれば顧客満足度の飛躍的な向上と、テクニカルサポート部の抜本的な業務改革につながります。

今後は、今回の成果を足がかりに、社内での理解と協力を得ながら、より大きな価値創造を目指していきます。

まとめ

今回の事例からわかるのは、生成AIが「ただの効率アップの道具」ではなく、仕事の質を上げたり、特定の人にしかできなかった作業をチームで共有できるようにしたり、最終的にはお客様自身が生成AIで問題を解決できるようになり、サポートのあり方そのものを変える力も秘めているのです。

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