「生成AI活用促進 Boot Camp in 安比」開催レポート

目次
はじめに
「生成AIを導入したいが、何から始めれば良いかわからない…」
「導入コストや運用、現場の抵抗など、課題が山積みで推進が難しい…」
「他社はどのように生成AIを活用し、成果を上げているのだろうか?」
生成AIの導入・全社展開を目指す企業の経営者やAI推進担当者の皆様は、このような悩みを抱えていませんか?
本レポートでは、2025年2月28日~3月1日に開催された「生成AI活用促進 Boot Camp in 安比」の熱気と学びを凝縮してお届けします。清水建設や関西テレビといった先進企業の具体的な成功事例をはじめ、自社で生成AIを導入するためのロードマップ作成方法や、定着までの鍵となる「3つのポイント」を詳しく解説します。
また、多くの企業が抱える「導入コストへの懸念」「運用面での不安」「効果測定の難しさ」といった課題を解決するため、本イベントでは、生成AIツールを実際に操作しながら学べる「体験型」のセッションを行いました。
このレポートが、貴社の生成AI活用戦略の推進に少しでも役立てば幸いです。
イベント概要:体験型で学ぶ、生成AI導入・全社展開への道
2025年2月28日~3月1日の2日間、岩手県の安比リゾートで「生成AI活用促進 Boot Camp in 安比」を開催しました。
本イベントは、生成AIの導入・全社展開を目指す企業の経営者やAI推進担当者が、実際に生成AIツールを操作しながら具体的な課題解決策を学ぶ「体験型」合宿です。
多くの企業では、導入コストや運用面の不安など、生成AIに関する課題が尽きません。そこで本イベントでは、清水建設や関西テレビによる成功事例紹介のほか、Lightblue Assistantを活用したハンズオンワークショップを行い、参加者が自社導入のための戦略やロードマップを検討できる環境をご用意しました。
さらに、実際にAIとやり取りしながらグループディスカッションを進めることで、多くの参加者が「短時間で論点が整理できる」「現場から経営層まで同じ視点で議論できる」と大きな手応えを感じたようです。
会場となった安比リゾートならではの開放的な環境もあり、参加者同士のコミュニケーションが活発に行われ、夜の懇親会では会社の垣根を越えた情報交換が繰り広げられました。参加者アンケートでは、「実践的なAI活用を初めて体感できた」「業務改革の具体的なイメージが湧いた」といった感想をいただいており、高い満足度がうかがえます。
本レポートでは、イベントでの具体的な取り組みや、現場で交わされた議論の一端をご紹介します。自社で生成AIを活用するためのヒントが満載ですので、ぜひご一読ください。

なぜ今、この合宿を開催したのか?~生成AI導入のリアルな課題~
生成AIは急速な普及が期待される一方で、導入企業が抱える課題は多岐にわたります。本イベントでは、清水建設や関西テレビなど多様な業種・役職の担当者が一堂に会し、それぞれが持つ導入課題を共有し、具体的な解決策を模索しました。業界や職位を超えた交流を通じて新たな視点とアイデアが生まれました。
参加企業一覧:
清水建設株式会社 | 大手総合建設会社。建築・土木工事の設計・施工を中心に、都市開発やエンジニアリング事業も展開。 |
関西テレビ放送株式会社 | 近畿広域圏を対象とするテレビジョン放送局。フジネットワーク系列で、番組制作やイベント企画も手掛ける。 |
コニカミノルタ株式会社 | 情報機器(複合機・プリンター)、ヘルスケア機器、産業用計測機器などを手掛ける電機メーカー。ITサービスやソリューションも提供。 |
日本製紙株式会社 | 紙、板紙、パルプ、木材、化成品、機能性材料などを製造・販売する大手製紙会社。 |
株式会社NYKビジネスシステムズ | 日本郵船グループのIT戦略を担う企業。システム開発、運用、ITコンサルティングなどを手掛ける。 |
ホンダロジコム株式会社 | トヨタ生産方式を活用した総合物流事業を展開。物流センターの企画・設計・オペレーション業務、3PL(物流支援)などを手掛ける。 |
JFEスチール株式会社 | 大手鉄鋼メーカー。各種鋼材の製造・販売を行い、国内外で事業を展開。 |
レイズネクスト株式会社 | プラントのライフサイクル全般(設計、調達、建設、メンテナンス)にわたるエンジニアリングサービスを提供。 |
日本郵船株式会社 | 世界有数の海運会社。定期船事業、不定期専用船事業、物流事業などをグローバルに展開。 |
キリンホールディングス株式会社 | ビールを中心とする酒類、飲料、医薬品、バイオケミカル事業などを展開する持株会社。 |
株式会社ヒューマンバリュー | 人材開発、組織開発に関するコンサルティング、研修プログラムの提供などを行っている企業。 |
安比合宿ならではの価値:開放感が育む「共創」の芽
安比の自然を活かした合宿形式は、活発な意見交換を生み出すきっかけとなりました。会議室とは異なる開放的な空間が、参加者の心理的な壁を和らげたようです。夜の懇親会では他社の担当者とも自然に話が弾み、実務に役立つアイデアを得られたという声が多く聞かれました。和やかな雰囲気で企業間のAI活用事例と課題を共有し、業界を超えた有益な交流の場となりました。

活発な情報交換が行われた。
Day1:リアル事例と最新トレンドから学ぶ生成AI実践ガイド
Day1では企業の生成AI活用事例や課題解決プロセスが共有され、最新のAIトレンドと導入に役立つノウハウを学ぶ機会となりました。会場では、実際に生成AIツールを操作するセッションも実施され、「実務にすぐ役立つ」「再現性がある」といった評価が多く寄せられています。また、「生成AIが想像以上に手軽に使えることに驚いた」との声も参加者から上がりました。ここからは、その具体的な内容を紐解いていきます。
第一部:生成AI事例セッション ― 2社の先進事例に学ぶ、現場の挑戦と成功の軌跡
第一部では、清水建設と関西テレビの担当者が登壇し、生成AI導入における3つの重要フェーズ—課題直面・解決プロセス・成果獲得—を実例と共に解説しました。両社の具体的な成功体験から、参加者は自社でのAI実装に直接応用できる実践知を得ることができました。

清水建設の取り組み:RAG導入の壁を乗り越え、検索・回答精度90%超を達成
清水建設は社内知識を効率的に活用するためRAGシステムを導入しました。初回導入時は図表の読み取り精度が不十分で、回答精度が35%にとどまりましたが、専門的なチューニングによる再導入で大きな成功を収めました。
取り組みは目覚ましい成果をもたらし、以下の実績を達成しました:
- 検索精度97%、回答精度93%を達成
- 約300名のパイロットユーザー(内勤者)の高い満足度を獲得
- 当初批判的だった役員層が推進派に転向
- 半年間で利用回数が26,700件に達する(主に内勤者)

全社展開への道筋が示された瞬間。
今後の課題は外勤者への利用定着であり、専用スタジオを設置して現場からの意見をもとに継続的な改善を行う予定です。
この事例は、自社の課題と正面から向き合い改善を継続することで、経営層を巻き込みながら全社的なAI活用推進を実現できることを示しています。

LLMの課題であった社内知識への対応をRAGで解決する仕組みが説明された。
関西テレビの取り組み:情報漏洩リスクを管理し、社員が安心して使えるAI環境を構築
関西テレビは、著作権や情報漏洩などのリスクに配慮しながら、社員が安心してAIを活用できる環境整備に取り組んでいます。このため、機密性の高い「Lightblue Assistant」を導入し、汎用LLMへの機密情報入力を禁止しました。

Lightblue AssistantとAzure OpenAIを連携させ、情報漏洩リスクを低減しつつ社内ナレッジをRAGで活用。
主な取り組みは次のとおりです。
- Lightblue AssistantとAzure OpenAIを組み合わせ、安全な運用環境を構築
- 社内マニュアルをRAG化し、社員が気軽に情報を利用できる環境を整備
- 社員参加型の「プロンプト大会」を開催し、社員約600名のうち15%が参加
- 部署ごとのニーズを取り入れたAIツール「My Assistant」の導入を推進
今後の課題は、Dropboxなど外部サービス連携時の情報管理ルールの整備です。
こうした対策により、社員は主体的かつ安全にAIを活用できるようになり、業務効率の向上と社内への定着が見込まれています。

社員のAI活用へのハードルを下げ、楽しみながらスキルアップを促す工夫が見られた。
事例共有から見えた3つの共通課題と、その解決の糸口
このセッションでは、参加企業が実際に抱える課題を共有し、それらの解決に役立つ具体策を議論しました。特に「全社導入時の費用対効果の示し方」「多忙な部署への導入をどう進めるか」「AI導入が組織に与える影響と、そのマネジメント」の3点が重点的に話し合われました。
これらの課題が注目された背景には、AIを全社規模で定着させるには経営層や現場スタッフの理解と協力が不可欠だという認識があります。
具体的な議論のポイントは次のとおりです。
- 費用対効果の壁をどう越えるか?:AI導入費用が高額なため、経営層を説得するには、導入効果を具体的な数値や事例で示す必要がある(例:問い合わせ対応の一元化による工数削減効果XX時間/月など)。
- 現場の抵抗感をどう和らげるか?:忙しい部署ではAI導入を新たな負担と感じやすい。そのため、「AIは仕事の敵ではなく、頼れるアシスタント」という文化の醸成が大切(例:AI未経験者がプロンプト活用で劇的に業務改善した成功事例の共有)。
- AI活用の幅をどう広げるか?:AI活用の用途はマニュアル検索だけでなく、企画書作成の壁打ち相手や議事録作成、さらには新規事業のアイデア創出といったクリエイティブ業務にも拡大中であることの認識共有。
こうした議論から、社員が楽しみながら参加できるコンテストの実施や、誰でも直感的に使えるUIの整備がAIの定着に効果的であることが確認されました。さらに、経営層に対しては、定量的な成果予測やリスク管理体制を明確に示すことで、組織全体でのAI活用が大きく進展するとの見通しが共有されました。

登壇者がLightblueツールを交えながら回答。
【第一部まとめ】事例から学ぶ、AI導入成功の鍵は「業務インパクトの定量化」と「継続的改善」
今回のセッションでは、参加企業の課題と解決策が共有され、AI活用における環境整備やリスク管理、そして何よりも改善の積み重ねの重要性が再確認されました。特に共通していたのは、「利用回数」といった表面的なKPIよりも、「業務インパクト」をいかに定量的に示し、経営層や現場を巻き込むかが、組織内の議論や展開を一段階押し上げる鍵であるという認識です。
清水建設事例のポイント 3点:
- 初期の失敗を恐れない:回答精度35%からのスタートでも、課題と向き合い改善を重ねることで90%超の成果を達成。
- 経営層の巻き込み:定量的な成果と熱意ある説明で、当初懐疑的だった役員を推進派に変えた。
- 現場フィットの追求:外勤者向け専用スタジオ設置など、利用者視点での継続的な改善が定着を生む。
関西テレビ事例のポイント 3点:
- 守りながら攻める:情報漏洩リスクを管理しつつ、社員が安全にAIを活用できる環境を整備。
- 「やらされ感」からの脱却:プロンプト大会など、社員が主体的に楽しみながらAIに触れる機会を創出。
- スモールスタートと横展開:まずは社内マニュアルのRAG化から始め、徐々に「My Assistant」へと展開。
これらの実例は、AI導入のKPIを単なる「利用件数」から「業務変革への貢献度を示す指標」へと転換するヒントとなり、社内説得のための強力な材料となるでしょう。
第二部:最新AIトレンドとエージェント活用のノウハウ ― AIは「指示待ち」から「自律型パートナー」へ
第二部では、大手企業の最新AIエージェント戦略やGPT-4.5などの先進モデルを活用した業務支援事例について、一般社団法人AICX協会理事 小澤 健祐氏(おざけん氏)による紹介が行われました。
さらに、参加者が実際にAI画面を操作しながらグループでディスカッションを進める“体験型セッション”も実施され、「AIが議論を効率化する」未来を垣間見ることができました。ここでは、AIが単なるツールから、いかにして自律的な業務パートナーへと進化しつつあるのか、その最前線を探ります。

AIエージェント元年はもうそこまで?最新トレンドと戦略的活用法
おざけん氏は講演の冒頭で、AIエージェントの活用が多くの企業で急速に注目されている現状に触れました。2025年を『AIエージェント活用元年』とする見方が業界内で広まりつつあり、先進モデルの登場もその背景にあります。今回のワークショップでも、ブラウザやアプリなど様々な環境へAIを統合し、新たな価値創造を実現する実例が紹介されました。参加企業にとって、この最新動向を早期に把握することは、競争力強化に直結する重要な機会となりました。

トリガータイプ(定時実行、条件に応じた実行など)と
システム連携パターン(アプリ統合、ブラウザ操作など)の組み合わせで、
業務自動化の可能性が広がる。
マイクロソフトも注力!大手企業のAIエージェント戦略とは
おざけん氏の報告によれば、マイクロソフトなどの大手企業はAIエージェント技術の強化に取り組み、新たなビジネスチャンスを追求しています。2024年11月のMicrosoft Igniteでは「Agentic World」構想が発表され、人間の指示で多様な操作を行うエージェントが重要な位置づけとなりました。特におざけん氏は「従業員1人とCopilot1つで1000人のエージェントに相当する」という大胆なビジョンに注目し、業務効率化にとどまらず、全社的な価値創出への発展可能性があることを示しました。参加企業にとって、おざけん氏が紹介したこれら最先端の戦略は、自社のAI活用の将来像を描く上で貴重な示唆となりました。
注目の最新AIモデル3選:GPT-4.5、Claude 3.7 Sonnet、o3-mini
このセッションでは、業務変革を加速する可能性を秘めた、次のような最新AIモデルが紹介されました。
- GPT-4.5(基本性能が向上したモデル)
- Claude 3.7 Sonnet(複雑な課題に段階的に対応できるモデル)
- o3-mini(多段階推論のモデル)
特にGPT-4.5とClaude 3.7 Sonnetについては、イベント当日夜からLightblue Assistant上で利用可能になるとアナウンスされ、参加者は最新技術にいち早く触れる機会を得ました。
AIが業務を代行する未来:実務直結の2大デモンストレーション
さらにワークショップでは、具体的な業務シーンを想定したデモンストレーションも行われました。
- ブラウザ操作の自動化:AIエージェントがブラウザ上のフォームに情報を自動入力するデモ。手作業による定型的な入力業務からの解放を示唆。
- Excel関数の自動生成:複雑なExcel関数をAIが対話形式で自動生成するデモ。専門知識がない担当者でも高度なデータ分析が可能になる未来を提示。
こうしたデモを通じて、参加者はAI導入後の具体的な業務改善イメージをつかむことができ、自社での業務効率化や新規事業への活用アイデアが刺激されました。

人間が指示を出すと、AIが代わりにWebフォームへの入力を実行。
定型業務の自動化を体感。
AIエージェント活用の鍵:パーソナライゼーションとRAG技術による「使える」データ連携
AIエージェントを活用するうえで、個別ニーズへのパーソナライゼーションは欠かせません。同時に、社内情報を整備しRAG(情報検索強化生成)技術で必要なデータを効率的に取り出す仕組みも重要です。こうした連携により、AIは「新人」のようなサポートツールにとどまらず、意思決定を支える存在へと進化します。データとシステムの管理を最適化することが、企業全体のパフォーマンス向上につながると期待されています。
現場のリアルな声が交錯:AI導入・運用における4つの主要論点
本セッションでは、参加企業が現場で直面する課題を提示し、AI活用の実践的なノウハウを共有しました。経営層から現場まで連携を強化し、組織として一体的に取り組む必要性に焦点が当てられました。
具体的には以下の4つのテーマが中心となりました。
- 全社的なAIリテラシー向上策:各部門への効果的な研修方法や、特に導入のキーマンとなる部長クラスへのハンズオン研修の必要性など、内部連携強化策。
- 具体的な業務自動化アイデア:定時型エージェント(例:毎朝の業界ニュースを自動要約し、関係部署へメール送信)や、Uber Eatsの注文自動化といった、身近な業務から高度な業務までの自動化事例。
- 「自社ならでは」のAI活用戦略:AIを単なる効率化ツールとしてではなく、企業独自の強みや価値観を反映させ、新たな価値創出につなげるための戦略的アプローチ。
- 外部データ連携の課題と代替策:X(旧Twitter)のデータ取得API有料化といった外部環境の変化を受け、他のSNSデータの活用方法や、自社顧客コミュニティの構築・分析といった代替アプローチの検討。
さらに、参加者からは、現場復帰後も生成AIを積極的に活用していく意欲が示されました。セッション全体を通じて、前向きな姿勢が共有されていました。

参加者は、自社業務への応用イメージを膨らませながら聞き入っていた。
【第二部まとめ】AIエージェントが拓く未来と、今すぐ取り組むべきこと
今回のイベントを通じて、参加企業はAIエージェントの最新動向を把握するとともに、実務レベルでの導入課題や成功事例を具体的に共有できました。各社がそれぞれの状況に適した導入戦略を形成するためのヒントを得ることができ、リラックスした環境の中で活発な議論が交わされたことが、今後の各企業の取り組みを加速する重要な一歩となりました。
第二部で得られた主要な学びとアクションポイント:
- AIエージェントの進化を認識する:AIは単純作業の自動化だけでなく、より複雑な判断や自律的な業務遂行が可能な「パートナー」へと進化している。
- 最新モデルの可能性を探る:GPT-4.5やClaude 3.7 Sonnetなど、高性能な新モデルの特性を理解し、自社業務への応用を検討する。
- 「パーソナライズ×RAG」の重要性:AIエージェントの価値を最大化するには、個々のニーズに合わせたカスタマイズと、社内データとの効果的な連携(RAG)が不可欠。
- スモールスタートで成功体験を積む:まずはブラウザ操作の自動化やExcel作業の補助など、身近な業務からAIエージェントの導入を試し、効果を実感する。
- 社内連携と教育体制の構築: AIエージェントの全社的な活用には、部門間の連携強化と、継続的な教育・研修体制が鍵となる。

【深掘り】第二部ディスカッションから見えた、AI導入初期のリアルな実践課題
第二部の熱気あふれるセッションの後、グループディスカッションでは、AI導入の初期段階で多くの企業が直面するであろう、より具体的な実践課題が噴出しました。特に、「利用者層のAIスキルや活用意欲のばらつき」や、「既存の業務フローへAIをどう自然に組み込むか」といった点が、多くの参加者にとって共通の悩みとして注目されました。
導入フェーズでは、現場の声を吸い上げる仕組みが不十分なケースが多く、トップダウンでの投資判断と、実際の現場運用との間にギャップが生じがちです。
ある企業では、数十名規模で生成AIの試験導入を開始したものの、上層部からは「ROI(投資対効果)は具体的にどの程度見込めるのか?」と費用対効果に対する懐疑的な声が上がっていました。一方、現場の担当者からは「週に1回程度はAIを活用して業務時間を短縮できている実感はあるが、個別の業務に合わせたチューニングが追いつかない」「もっと手軽に使えるようにしてほしい」といった声が上がり、経営層と現場との間に存在するAI導入に対する温度差が議論の焦点となりました。
同様の課題に直面している企業担当者は、単なる投資効果の試算だけでなく、現場レベルでの具体的な活用プロセス設計や、継続的なフィードバックサイクルの早期構築がいかに重要であるかに気づかされたはずです。この課題認識の共有こそが、次のステップである「ロードマップ作成」へと繋がる重要な布石となりました。
Day2:いざ実践!自社のための「生成AI導入戦略ロードマップ」策定ワークショップ
Day1でインプットした先進事例や最新トレンド、そしてAI導入のリアルな課題を踏まえ、Day2はいよいよ各社が自社の状況に合わせた「生成AI導入戦略ロードマップ」を具体的に描き出すワークショップ形式で進行しました。ここでは、単に学ぶだけでなく、実際に手を動かし、AI(Lightblue Assistant)も活用しながら、明日から実行可能なアクションプランへと落とし込むことを目指しました。

前日の熱気を力に:目指すは「業務変革」につながるAI活用
ワークショップの冒頭、参加企業は前日の議論を振り返り、「AIの単なる利用率を高めること」ではなく、「真に業務変革につながるAIの活用」を目指すという共通の方針を再確認しました。これは、現場スタッフと経営層の双方がAI導入の価値を実感し、組織全体の変革をスムーズかつ効果的に加速させるための重要な視点です。
共有された3つの基本方針:
- 成功体験の共有が鍵:AI活用による具体的な業務改善事例や成功体験を組織内で積極的に共有し、成功の連鎖を生み出す。
- 経営層への価値提示は必須:AI導入の目的と期待効果を経営層に明確に伝え、理解と協力を得る。
- 「利用率」の罠に陥らない: 単純なAI利用率向上を追い求めるのではなく、それが本質的な業務改善や成果に結びついているかを常に問う。
このような基本方針を共有することで、表面的なAI活用にとどまらず、組織全体がAIの真の価値を実感しながら、着実に導入を進めていくための明確な道筋が確認されました。この共通認識が、具体的なロードマップ作成の土台となりました。

それぞれの課題や目標に基づいたロードマップ作成に取り組んだ。
Lightblue Assistantを活用した3ステップ・ロードマップ作成術
参加者は、自組織における生成AI導入のための具体的な戦略ロードマップを、限られた時間の中で効率的に作成しました。この策定プロセスを強力に支援したのが、Lightblue Assistantです。AIとの対話を通じて、実践的で即時性のあるアウトプットを得ることを目的としました。
具体的な3ステップ・プロセス:
Step1)ゴール設定と現状課題の明確化:
- 自社がAI導入によって達成したい具体的なゴール(KGI/KPI)は何か?
- そのゴール達成を阻んでいる現状の課題(ギャップ)は何か?
- Lightblue Assistantに問いかけ、論点を整理。
Step2)課題解決のための施策立案とアクションプラン策定:
- 明確になった課題を解決するために、どのような施策が考えられるか?
- 各施策を具体的なアクションプランに落とし込み、担当者と期限を設定。
- Lightblue Assistantがアイデア出しやプランの構造化をサポート。
Step3) AIによる資料化と迅速な共有:
- 策定したロードマップやアクションプランを、Lightblue Assistantを用いてHTML形式などの資料として迅速に生成。
- 関係者間でのスムーズな情報共有と、具体的なアクションへの移行を促進。
こうしたAIを活用した実践的なプロセスにより、抽象的な議論に終始することなく、実務に直結する戦略が短時間で明確になり、参加者は自社に持ち帰ってすぐに行動に移せる具体的な道筋と成果物を手にすることができました。

Lightblue Assistantがロードマップ作成を強力にサポート。
AIへの指示を通じて、アクションプランの優先順位付けや期間設定などを効率的に行った。
AIがファシリテーターに?グループディスカッションで見えた新たな協創スタイル
ワークショップで各社が作成したロードマップ案は、その後のグループディスカッションで共有され、活発な意見交換が行われました。特筆すべきは、このディスカッションにおいて、AI(Lightblue Assistant)に議論の要点をリアルタイムで要約させながら、そこから生まれた新しいアイデアを即座に集約・整理するという、新しい手法が試みられた点です。
これにより、短時間でも効率的に論点整理とアクションプランのブラッシュアップが進み、多くの参加者が「まるでAIが議論のファシリテーター役として機能しているようだ」「人間だけでは発想が偏りがちな部分を、AIが良い意味で刺激してくれた」「議論が驚くほどスムーズに進んだ」と、AIとの協創による新たな可能性を実感していました。

AIとの対話を通じて、具体的なアクションプランが形作られていく。
ロードマップ共有で見えた、AI導入成功への3つのアプローチ
各企業は、自社が抱える課題や組織文化に応じて、特色ある実践的なロードマップを作成しました。それらを互いに共有し、フィードバックし合うことで、AI導入を成功に導くための共通の課題や、それを乗り越えるための具体的なアプローチがより明確になりました。
特に注目された3つのアプローチ:
- 経営層巻き込みのストーリー構築:AI導入の初期段階から経営層をいかに巻き込み、理解と協力を得るか。そのための段階的なアプローチ(スモールウィンを示し、徐々に大きな投資を引き出す等)の重要性が共有されました。
- 「伝わる」共有方法の工夫:策定したロードマップを関係者に効果的に伝えるため、Lightblue AssistantのHTML出力機能などを活用し、視覚的で分かりやすい資料を作成・共有するノウハウ。
- AI活用による迅速な資料作成サイクル:Lightblue Assistantのようなツールを活用することで、従来数日かかっていた戦略資料作成が数時間に短縮可能に。このスピード感が、変化の速いAI時代における競争優位性につながるとの認識。
これらのアプローチにより、参加者はAI導入に向けて具体的なイメージを膨らませ、「これなら自社でも十分に実現可能だ」という確かな手応えと見通しを持つことができました。

ゴール設定から具体的なアクション、スケジュールまでがAIを活用して整理された。
AI定着の鍵は「熱意あるコアユーザー」育成と伴走型教育体制
さらに、策定したロードマップを絵に描いた餅に終わらせず、現場でのAI活用を確実に定着させるためには、「コアユーザー」の育成と、彼らを中心とした伴走型の教育・サポート体制の構築が極めて重要であるとの認識が深まりました。
具体的な施策案:
- 各部署にAI活用の旗振り役となるキーパーソン(コアユーザー)を数名ずつ配置し、彼らが率先してAIを活用し、周囲のメンバーの利用を積極的に支援する。
- コアユーザーに対しては、例えば「週に3回以上、Lightblue AssistantなどのAIツールを活用して何らかの業務改善を行う」といった具体的な目標を設定し、活用機会を意図的に作り出す。
- 全社的な基礎教育(AIとは何か、倫理的注意点など)に加え、各部署の業務特性に合わせた、より専門的で実践的なAI活用研修(例:営業部向け提案資料作成支援、開発部向けコード生成支援など)を実施する。
こうした、現場の実情に寄り添った現実的な体制を整えることで、トップダウンの指示だけでは難しい、AIが日常業務に自然と根づくための現場主導のボトムアップ型取り組みへの関心と期待が高まりました。
「技術」だけでは動かない組織:「文化醸成」と「コミュニティ活動」がAI活用の土壌を耕す
一方、AI活用を一部の先進的な社員だけでなく、組織全体に、そして長期的に定着させるためには、最新技術の導入や高度なツールの提供だけでは不十分であり、組織文化そのものの育成や、社員同士が学び合い、支え合う人間的なコミュニティ活動の推進が不可欠であるとの意見が多く寄せられました。
具体的なアイデア:
- 現場主導で生まれたAI活用の成功事例(小さなものでも可)を、社内SNSや定期的な発表会などで積極的に共有し、互いに学びあい、称賛しあう文化を育成する。
- コアユーザーが達成した小さな成功体験(例:「AIを使って会議の議事録作成時間が半分になった!」)を、経営層も巻き込んで組織全体に広め、AI活用のポジティブなイメージを醸成する。
- RAG(検索拡張生成)などの技術を活用した社内ナレッジ共有システムの整備と並行して、そのシステムを軸としたテーマ別勉強会や、部門横断的なAI活用アイデアソンといったコミュニティ活動を推進する。
組織が一体となってAI活用の経験を共有し、共に学び、成長していけるような、温かく活気のある取り組みが、結果としてAIの全社的な定着を加速させます。今回のワークショップは、そうした取り組みを始めるための具体的なヒントや、企業間の新たなつながりを得られる貴重な場となりました。
【Day2まとめ】現場の声から導かれた、AI導入成功への3つのキーポイント
たとえば以下のような事例が共有されていました。
- 数名の“コアユーザー”を育成し、彼らが作った業務自動化シナリオを他部門に教える仕組みで全社展開を進めた結果、大幅な工数削減に成功したケース
- 逆に「管理部門がAI導入に消極的で、横展開がうまくいかない」という事例
「経営トップが理解し、現場に権限とツールを与え、成功者のノウハウを迅速に共有する」という三位一体の体制が肝要だとわかります。
ワークショップ後半に行われたディスカッション全体を通じて、AI導入を成功させるためには、単に「AIツールの利用率をアップさせる」ことだけを目指すのではなく、「いかに現場を巻き込み、具体的な成果を可視化し、それを組織全体で共有・学習していくか」が決定的に重要であるという共通認識が、参加者の間で明確になりました。
企業内部でしばしば見られるAI活用の格差(一部の部署や社員だけが積極的に活用し、他は傍観している状態)を埋めるには、「現場発の成功事例の横展開」と「経営層による継続的なコミットメントとサポート」が不可欠です。参加者からも「AI活用が進んでいる部署ほど、熱意あるアンバサダー的な存在や、管理職の積極的な後押しがある」「導入初期の小さな成果でも、それを数値で示して経営層に報告すると、追加の予算やリソースが確保しやすくなった」といった具体的な声が多く挙がっていました。
AI導入・定着を成功に導く3つのキーポイント:
- 「熱意あるコアユーザー」を育成し、彼らを中心としたサクセスループを回す:
- 数名の“AI推進コアユーザー”を各部門で育成。
- 彼らが自身の業務で作成した具体的な業務自動化シナリオやプロンプト集を、研修や勉強会を通じて他部門のメンバーに惜しみなく教える仕組みを構築。
- これにより、ある部署での成功が他部署へ自然と波及し、全社的な工数削減や業務品質向上といった大きな成果(サクセスループ)を生み出したケースが共有されました。(逆に、「管理部門がAI導入に消極的で、現場の良い取り組みがなかなか横展開されない」といった課題事例も。)
- 経営トップの「本気度」を示し、現場に権限とツールを与える:
- 経営トップ自らがAI活用の重要性を繰り返し発信し、AI導入を「全社的な経営課題」として位置づける。
- 現場がトライ&エラーを繰り返しながら最適な活用法を見つけ出せるよう、必要なツール(高性能なAIアシスタント、十分なコンピューティングリソース等)と、ある程度の試行錯誤を許容する権限(予算、時間)を与える。
- 「成功者のノウハウ」を迅速に共有し、組織全体の学習サイクルを加速する:
- AI活用で成果を上げた社員のノウハウ(具体的なプロンプト、活用したツール、改善前後の業務プロセスなど)を、社内ポータルやナレッジベース、定期的な成果発表会などを通じて、迅速かつ広範囲に共有する仕組みを整備する。
- これにより、組織全体が成功と失敗の両方から学び、AI活用のレベルを継続的に向上させていく「学習する組織」への変革を促す。
まさに、「経営トップがAIの可能性を深く理解し、現場に適切な権限と最良のツールを与え、そこで生まれた成功者のノウハウを組織全体で迅速に共有・学習する」という三位一体の体制こそが、AI導入を成功させ、持続的な競争優位性を確立するための肝要であると、参加者全員が再認識する場となりました。
次の舞台は青森へ――Lightblue Meetup in Nebuta 開催予定
今回の合宿では、生成AIを組織全体で活用するための具体的な戦略や、現場・経営層を巻き込んだ実践的な取り組みが多くの企業で進み、各社で導入方針の明確化や現場展開の道筋が見え始めるなど、具体的な成果が多数報告されました。このような成果を踏まえ、今後のさらなる活用と連携が期待されています。
そして、こうした流れを継続・発展させる機会として、2025年8月には新たなイベントの開催を予定しています。
今回得られた成果や、新たに生まれた活用事例を持ち寄り、参加企業は次回に向けて具体的な事例づくりや施策の準備を進めている段階です。
一社一社の想いや現場での工夫が、どのように実を結び、今後の展開につながっていくのか、非常に楽しみです。

付録・追加情報
当日撮影された写真や発表資料の一部については、別途参加者間で共有される予定です。本レポートに関するご質問や事実確認は、主催者事務局までご連絡ください。迅速に対応いたします。また、本記事の内容に誤りを発見された際も、速やかにフィードバックいただけると幸いです。今回のワークショップを通じて得られた貴重なアイデアや提案は、今後の検討材料として活用し、さらなる改善やより充実したイベント企画に生かしていく方針です。
安比ブートキャンプが示した、企業変革への確かな一歩
本イベント「生成AI活用促進 Boot Camp in 安比」は、生成AIの持つ無限の可能性を、参加企業が具体的かつ実践的に掴むための、非常に有意義な体験となりました。単なる知識のインプットに留まらず、自社の課題に即した戦略を策定し、明日からのアクションに繋げるという、まさに「ブートキャンプ」の名にふさわしい2日間でした。
初日には、清水建設がRAGシステムの導入初期の壁を乗り越え、現場の課題をリアルに解決した事例(回答精度35%→93%達成)が共有されました。また、関西テレビは、情報セキュリティという重要課題に正面から向き合い、社員の安全性とAI活用の自主性を両立させた先進的な取り組み(Lightblue AssistantとAzure OpenAIの連携、プロンプト大会の成功)を発表しました。これら具体的な成功事例は、多くの参加者にとって「自社でもできるかもしれない」という勇気と具体的なヒントを与えました。さらに、おざけん氏による最新AIトレンドやAIエージェント戦略のデモンストレーションは、参加者にAI活用の新たな視点と、その先に広がる業務変革の現実的なイメージを提供しました。
そして翌日のワークショップでは、Day1の学びと熱気をそのままに、各社が自社の状況に合わせたAI活用ロードマップを策定しました。AI(Lightblue Assistant)をファシリテーターや壁打ち相手として活用しながら、短時間で具体的なアクションプランへと落とし込むプロセスは、多くの参加者にとって新しい体験となったようです。「経営層をどう説得するか」「現場の利用をどう促進するか」「費用対効果をどう示すか」といった、導入初期に必ず直面するであろう課題に対し、具体的な打ち手が見えたことは大きな収穫と言えるでしょう。
この2日間を通じて明確になったのは、生成AI導入を成功させ、企業変革を推進するための鍵は、以下の3点に集約されるということです。
- 現場の熱意と主体性:AIを「使わされる」のではなく、「使いこなしたい」という現場のポジティブなエネルギーを引き出すこと。
- 経営層の深い理解とコミットメント:AI導入を単なるコストではなく、未来への投資と捉え、継続的に支援する姿勢。
- 小さな成功を積み重ねる継続的な改善サイクル:最初から完璧を目指さず、スモールスタートで成功体験を積み、そこから学びを得て次のステップへ繋げるアジャイルなアプローチ。
参加者の熱意と具体的なビジョンは、安比の地を後にし、それぞれの企業へと持ち帰られました。このブートキャンプが、各社のAI推進を力強く後押しし、日本の産業界全体のAI活用レベルを一段引き上げる、その確かな一歩となったことを願ってやみません。