2026年9月15日に開催された「Lightblue AI Summit 〜Re:Work〜 経営を再定義する ― 先駆者たちの実践知」。最後のセッションには、株式会社Lightblue 執行役員 営業部長の川俣彰広が登壇しました。
AIエージェントが成果物まで作れるようになり、モデルはこれからも賢くなります。それでも、個人の仕事は速くなったのに、組織の仕事はまだ変わっていない。一方で、AIモデルが賢くなっても、そのまま使うだけでは他社との差別化にはつながりません。川俣は、そこで重要になるのが自社の理念や判断軸、仕事のやり方といった「コンテキスト」だと語りました。
本レポートでは、最新モデルで作った「完璧な」提案資料がなぜダメだったのかという社内エピソードと、営業の「虎の巻」づくりから生まれた10月のアップデートを中心にお届けします。
登壇者
川俣 彰広
株式会社Lightblue 執行役員 営業部長

目指すのは「誰かにしかできない仕事」を、誰でもできる状態にすること

川俣はまず、Lightblueのミッション「テクノロジーの恩恵を全ての人へ」と、ビジョン「AIでビジネスと働き方を再定義する」を紹介しました。大事なのは「全ての人へ」の部分だといいます。
川俣:個人が良くなるだけじゃダメで、やっぱり組織にいる全員が良くなる。できる人とできない人が分かれるのではなく、全ての人に届けるにはどうしたらいいかということに向き合ってきました。
Copilotなどの登場を受けて、自分たちの存在価値を見直す期間が数ヶ月続いたことも明かしました。その中で言葉にしたのが、目指さないことと目指すことの区別です。
川俣:私たちが目指すのは、誰でもできる仕事をもっと簡単にすることではありません。〇〇さんにしかできない仕事を、誰でもできる状態にする。そのために生成AIを使い、Lightblueを使っていただく。人の仕事をAIに置き換える発想ではなく、人間が中心で、社員が中心で、仕事のやり方が良くなっていく考え方を大事にしています。
アシスタントは3倍に。それでも「組織はまだ変わっていない」

Lightblueは2024年から「アシスタント」を軸に、業務のノウハウを型にして配る考え方を大事にしてきました。
川俣:我々が作ったAIツールを使ってください、では意味がないと思っています。現場の皆さんが持っているノウハウをAI化しないと、本当にいいものは生み出せない。だからこそ、ITやAIにほとんど触れない人でもエージェントを作れることが大事だと考えてきました。
社内データを活用するRAG、6月にリリースしたアシスタント同士をつなぐワークフロー機能、外部とつなぐMCPなどを重ね、月ごとに作られるアシスタントの数は3倍以上に増えたといいます。一方で、川俣は「これだけじゃダメだ」と続けました。
川俣:それによって売上は上がりましたか、組織の形態は変わりましたか。そういうところまでは、まだ至っていないと思っています。それが今回のセッションを用意した理由でもあります。
汎用AIをそのまま使うだけでは、他社との差がつかない

川俣は、いま起きている変化と課題を挙げました。まず、人がAIに指示を出せば成果物まで作ってくれるようになり、対話の相手から「仕事を任せられる」存在になったことです。
次に、個人は速くなっても組織は変わらないことです。稟議資料を作るのは速くなっても、稟議フローは変わらない。自分専用のアシスタントは大量にあっても共有されず、成功事例は部内に閉じたまま。ベテラン社員がノウハウを持ったまま退職していく問題も、より深刻になると指摘しました。
さらに、AIモデルが賢くなっても、そのまま使うだけでは他社との差別化につながらないことを指摘しました。
川俣:これからは、きれいなエグゼクティブサマリーがあって、提案内容と解決策が並んだ資料を大量に受け取ることになると思います。でも、AIが作ったものを受け取っても、もう差はない。誰でも出せる答えは同質化していきます。
そこに「我々は何者で、何を大事にしていて、どんな強みがあるのか」という思いが乗ると、仕事のやり方が変わる。だからこそ「差を埋めるのはコンテキストである」というのが、このセッションのテーマであり、機能開発の内容でもあると川俣は語りました。
「Fableで30分、16枚」の資料は、なぜダメだったのか

コンテキストの大切さを実感したエピソードとして、川俣は社内の出来事を紹介しました。最新モデルのFableが出た頃、ある営業メンバーがユーザー企業の部長への提案資料を作ってきたといいます。
川俣:「Fableを使ったらめちゃくちゃいい資料ができました。今まで作った資料の中で一番いいです」と。エグゼクティブサマリーもきれいで、DX戦略とも整合していて、16枚が30分でできたと。でも私のフィードバックは「全然ダメだね」でした。
川俣:この商談であなたは何を伝えて、相手に何て言ってもらいたいのか。それが資料から全然浮かんでこない。提案は3つきれいに並んでいるけれど、一番進めたいことは何なのか。どの会社にも当てはまる課題と解決策になっているけれど、Lightblueがやる意義は何なのか。聞くと答えられないんですよね。
プロンプトや入力情報に問題があったのではと疑い、チャットの履歴をすべて確認したところ、プロンプトはほぼ満点で、過去の議事録まで入れた「理想的なAIの使い方」だったといいます。欠けていたのは、資料を作る前の「この会社に対して何をしたいのか」という思いでした。
川俣:AIは思考の代替にはならないんですよね。増幅されるだけで。判断軸がなければ、中身がある風の提案書が、今までより高いお金で、早い時間でできて、いっぱい提案して、いっぱい失注する状態が生み出されるだけです。
AIは自分の出力を「完璧です」と言ってしまうため、出力の良し悪しを人が判断できることも大事な観点だと付け加えました。
勉強会の文字起こしから、営業の「虎の巻」をつくる

では、ベテランのノウハウのようなコンテキストを、どう作るのか。川俣が取り組んだのが、営業の「虎の巻」づくりです。材料にしたのは、過去6回分の社内勉強会の文字起こしと資料でした。
川俣:整形もしていない、誤字脱字も多い、ただの文字起こしをそのまま投げ込んで、「ノウハウにして本を書いて」と頼んだだけです。それでも「Lightblue営業とは」を定義して、構造化して、きれいにまとめたものがすぐ出てくる。
そこから「このケースは判断が違う」「ここをもっと具体的に」と、フィードバックと新しい素材の投入を繰り返しました。実際の作業は1日の中で済んだといいます。出来上がったのはテクニック論ではなく、「営業とは発注書をもらう存在ではなく、お客様と一緒に高い理想を目指してプロジェクトを推進する存在だ」という考え方の定義でした。
川俣:大事なのは、品質を決める、評価できる人の存在です。文章を書くのはAIがやってくれる。「これって我々らしいですか」と聞かれたときに、ここは違う、うちっぽくない、ここが足りないとフィードバックできる人。これがベテランと呼ばれる人で、暗黙知や属人化と言われてきたことですよね。
コンテキストを埋め込んだアシスタントで、商談スコアは88点に

ただし、虎の巻は作って終わりでは意味がありません。新人に渡しても読まないし、読んでも分からない。そこで川俣は、虎の巻をAIに埋め込み、AIをメンターとして一緒に働く形にしました。
1つは、プロンプトを書かずに虎の巻のコンテキストだけを埋め込んだ「何でも相談アシスタント」です。会社名を指定せず、「製造業のシステム部に商談します。どうしたらいいですか」と質問するだけでも、「なぜLightblueなのか」を踏まえた答えが返ってくるといいます。
川俣:相談や壁打ちだけでなく、これを使って提案書や報告書を作ると、全ての成果物にコンテキストの判断軸が乗ってくる。本当にAIを社員として扱えるようになります。
もう1つは、商談の内容を点数で評価する「商談フィードバックアシスタント」です。評価項目は「予算が聞けたか」のような一般的なテクニックではなく、「理想の引き上げはできたか」「思いは伝わったか」といった、Lightblue営業としての振る舞いになっています。
結果はすぐに表れました。「全然ダメだね」と言われたメンバーは、何でも相談アシスタントとの壁打ちを続けて新しい資料を作り直しました。
川俣:正直、私の手直しは全くありませんでした。商談スコアは88点。70点以上はすごいんですけど、しかも私が関わっていない別の商談でも80点以上を出せる。そんな再現性が生まれて、人の考え方や行動が変わりました。
10月のアップデート:会社メモリー、ルーム、個人メモリー

こうした取り組みを踏まえ、川俣は10月1日に予定しているメジャーアップデートを紹介しました。新入社員が会社に馴染んでいく順番を、製品に落とし込んだといいます。
会社メモリー:「会社について」のコンテキストを、全ての処理に埋め込む機能。理念の浸透をAIとともに進められる
ルーム:チームのコンテキストを蓄積・共有して使う、仕事の場。営業の虎の巻のような「回答の軸」を設定でき、部門ごとの公式アシスタントも並べられる。やり取りから生まれた新しい気づきを、AIがコンテキストに足していくこともできる
個人メモリー:「あなたはどういうこだわりを持って仕事をしていますか」というコンテキストを、全ての処理に埋め込む機能
会社メモリーについて、川俣は経営や人事の関わりが欠かせなくなると話しました。
川俣:経営の思い、人事の思い、会社の理念をどうシステムに埋め込むか。経営としてAIをどう動かすかを議論しなければいけない状態になってきます。そうすると、会社全体の出力が変わっていきます。
あわせて、利用範囲を広げやすくする機能や権限チェックのダッシュボードなど、安心して使うための機能も強化していきます。さらに、虎の巻づくりを体験する「コンテキスト研修」や、企業ごとの階層別・部門別研修も用意していると紹介しました。研修はすでに第1回を実施しており、10月・11月には計3回開催する予定だといいます。
まとめ:器に何を入れるかは、皆さんにしか決められない

川俣は最後に、この場を作った理由をこう語りました。
川俣:私たちが作れるのは、Lightblueという器です。でも、そのコンテキストに何を入れるかを作れるのは、本当に皆さんしかいないんですよね。経営として、部門として、個人として、何を入れるのか。どんどん実行していただきたいと思います。
便利なツールで終わらせず、変革に至る会社にするために、自社のコンテキストを現場とともに判断軸として使える形にしていく。川俣はそう締めくくり、「AIを使う会社から、AIと働く会社へ」という言葉でセッションを終えました。
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